森と算盤 地球と資本主義の未来地図
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「森と算盤 地球と資本主義の未来地図」渋沢寿一
大和書房
■目次■
第1章:渋沢栄一の「合本主義」と「資本主義」
渋沢栄一が説いたもの/栄一を生んだ武蔵国血洗島/なぜ日本に「資本主義」を持ち込んだのか/栄一の「合本主義」とは何か/『論語と算盤』―そろばんだけで理想の社会はつくれない/忘れられていく公益」
第2章:限界を迎えた現在
栄一以後の日本経済/暮らしが変わった60年間/豊かさと反比例する「不安」/エコロジカル・フットプリント/人類は地球の〝元金〟に手をつけた/安いエビ天丼が示すもの/ムヒカが語った「幸せ」 /SDGsで本当に重要なこと
第3章:里山はなぜ持続可能だったか
一人も餓死者がいない村/エネルギー源としての森/栗一町、家一軒/森が与えてくれるもの/世代を超えて育てられた日本の森/「仕事」と「稼ぎ」/世代をつなぐシステムとしての祭り/江戸という循環型都市/自治、節度、責任を持った「大人の社会」/「温かい社会」から「冷たい社会」へ/持続可能な社会は「関心」から始まる
第4章:里山の資本主義とは何か
「里山資本主義」を実践する真庭市/「売れない」山をどうするか/13年後の一日を具体的に描く/地域ぐるみの「ゼロエミッション」/「完璧な循環システム」の失敗/集積基地という「逃げ道」/山が循環し始めた/自分たちの価値を、自分たちで決める/吉里吉里の復興計画書/里山資本主義の根本にあるもの/お金をベースにしない「非経済的価値」/行政に任せてきたものを地域に取り戻す/自分らしい生き方を探る「なりわい塾」/あるく、みる、きく/具体的な未来を描く/昔と今の間ぐらいの生き方
第5章:現代の〝百姓〟たち
生きるための原点を求めた移住―上田善宗さん/直観を信じて行動する―髙橋祐次さん、玲奈さん/生きる指針を得るために農業を学ぶ―高谷裕治さん、絵里香さん/地域の〝起業家〟―川上 翔さん、樋田碧子さん/限界集落「石徹白」にもたらされた活気/忘れられた作業着「たつけ」を蘇らせる―平野馨生里さん/地域の力で復活させた水力発電―平野彰秀さん/DoではなくBeの生き方/幸せな社会とは何か/地に足のついた暮らし
終章:森と算盤
物々交換と貨幣経済/環境破壊から地球破壊へ/持続可能に生きるための三つの価値観/「森と算盤」的生き方を実現するには
要約と感想レビュー
会社は社会の利益のためにある
著者は、新一万円札の顔として注目される渋沢栄一の曾孫(ひまご)です。現在はNPO法人共存の森ネットワーク理事長として、森とともに生きてきた先人たちの伝統的な暮らしの知恵を活用する活動をしているという。
驚いたのは、渋沢栄一の孫である父の渋沢敬三が「じいさん(栄一)は、資本主義というとんでもないものを日本に持ち込んだ。日本は資本主義に食いつぶされるのではないか」と言っていたということでしょう。
そもそも渋沢栄一は、欧米に渡って、身分にかかわらず自由に商売できる社会を見て、資本主義の中に平等な社会を見出したのです。渋沢栄一は「会社は社会の利益のためにある」と考え、公益を追求する資本主義を「合本主義」と表現しました。経済とは、平等な社会を実現させ、公益を最大化させるためのツールと考えたのです。
明治維新によって資本主義を導入した日本は、富国強兵から戦争、敗戦を経験し、奇跡の経済復興からグローバル経済化に組み込まれていきました。著者は1%の富裕層が世界の富の50%以上を所有しているという状況と、お金ですべてを判断してしまうような社会のあり方に渋沢栄一と同じように、危機感を持っているのです。
孫・渋沢敬三の言葉・・「じいさん(栄一)は、資本主義というとんでもないものを日本に持ち込んだ。日本は資本主義に食いつぶされるのではないか」(p23)
著者は現在NPO法人共存の森ネットワークの理事長として、化石エネルギーを使っていない時代の知恵を活用できないか試行錯誤を繰り返しているという。1950年代の日本では40%の人が農林業に携わっており、農村では自分たちで食べ物を作り、地域の中でそれを交換したりもらったりして、地域の中で暮らすことができていたのです。
例えば、秋田県の鵜養(うやしない)村では村の共有財産として広葉樹の森を33か所持っており、毎年、その内の一つの森の木をすべて伐って燃料としていたという。次の年は別の森の木を伐って、次の年は別の森ということを繰り返して、33年で一回りのサイクルを回していたのです。落葉広葉樹は伐っても、切り株から脇芽が生えてくるし、山菜のワラビも生えてきますから、山と人間が共生できていたのです。
また、村には寄り合いがあり、村人の暮らしの状況や考え方を共有しながら、お互いを思いやりながら、村の運営を進めることができていたのです。
鵜養(うやしない)は村の共有財産として広葉樹の森を33か所持っていました・・毎年、その内の一つの森に生えている木を集落総出ですべて伐ります(p79)
煩わしい人間関係の中に幸せがある
近代化・都市化の流れの中で、私たちは村の人間関係を煩わしいと避けるようになっていきましたが、実はそうした人間関係の中に幸せの要素があるのではないかと著者は気付いたのです。著者は現在、都会から農村への移住者のサポートをしているという。都会の生活と、森との共生する生活の中間に持続可能な社会のあり方があるのではないかと考えているのです。
お金を稼ぐだけであれば都市生活が一番楽ですが、それ以外の価値感があるのではないか、化石燃料は今後も永続的に安定供給されるのだろうかという問題を考えさせられる一冊でした。
著者が問いかけるのは、「足るを知る」ということです。つまり、今の状態から、幸せというお金以外の満足を見つけようということと理解しました。渋沢さん、良い本をありがとうございました。
引用
現在の社会は、無縁社会と称されます。「今だけ、お金だけ、自分だけ」という社会です。人と人、世代間のつながりは切れ、価値観が共有されず、みんなが自分のことだけを考えるような社会です(p103)
建材にするために60~70年かけて育てた杉の木も、一時期は1本あたり2万円ほどで売れていたのが、700円や800円程度・・それでは誰も山を育てる気にもなりません(p112)
本来重要なのは、金額ではなく自分の価値観に照らし合わせること・・自分の価値観さえもお金に左右されるようになりました(p200)
https://youtu.be/PXvFiMLbg1M
著者経歴
渋沢寿一(しぶさわ じゅいち)・・・1952 年生まれ。NPO法人共存の森ネットワーク理事長。農学博士。明治の実業家渋沢栄一の曾孫。国際協力機構専門家としてパラグアイに赴任後、循環型都市「ハウステンボス」の企画、経営に携わる。全国の高校生100人が「森や海・川の名人」をたずねる「聞き書き甲子園」の事業や、各地で開催する「なりわい塾」など、森林文化の教育・啓発を通して、人材の育成や地域づくりを手がける。岡山県真庭市では木質バイオマスを利用した地域づくり「里山資本主義」の推進に努める。